犬の首のしこりは、良性とは限りません

犬の首にしこりを見つけたとき、脂肪腫やイボのような良性のものもあります。けれど、リンパ節の腫れ、唾液腺嚢胞、肥満細胞腫、甲状腺腫瘍、リンパ腫などが隠れていることもあります。首には、気管、食道、甲状腺、唾液腺、リンパ節、太い血管や神経が集まっています。そのため、同じ「首のしこり」でも、原因によって検査や治療方針は大きく変わります。見た目や触った感触だけで、安全か危険かを判断するのは難しい場所です。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

よくある原因

皮膚や皮下にできるしこりでは、脂肪腫、皮脂腺腫、表皮嚢胞、組織球腫、肥満細胞腫、軟部組織肉腫などが候補になります。脂肪腫は柔らかく、皮膚の下で動くことが多い良性腫瘍です。ただし、柔らかいから必ず良性とは言えません。肥満細胞腫は、虫刺されや小さなイボのように見えることもあり、見た目だけでは判断できない代表的な腫瘍です。触ったあとに赤く腫れる、急に大きくなる、出血する、かさぶたになる場合は注意が必要です。

首の下やあごの周りが腫れている場合は、リンパ節の腫れも考えます。歯周病や皮膚炎などの炎症で反応性に腫れることもありますが、犬のリンパ腫では、下顎、肩の前、脇、足の付け根、膝の裏など、複数のリンパ節が同時に腫れることがあります。痛がらないから大丈夫、元気だから様子を見る、とは言い切れません。リンパ腫は進行が速いことがあり、早めの確認が大切です。

あごの下から首にかけて、ぶよぶよした柔らかい腫れがある場合は、唾液腺嚢胞の可能性があります。唾液を作る腺や管が傷つき、唾液が皮下に漏れてたまる病気です。初期には痛みが少なく、片側だけがふくらむことがあります。大きくなると、食べにくい、よだれが増える、舌が押し上げられる、呼吸が苦しそうになることがあります。針で中身を抜くと一時的に小さくなりますが、原因となる唾液腺が残っていると再発しやすく、根本治療には手術が必要になります。

首の深い位置に硬いしこりがある場合は、甲状腺腫瘍も鑑別に入ります。甲状腺腫瘍は、気管や食道、周囲の血管に近いため、大きくなると咳、声のかすれ、飲み込みにくさ、呼吸のしづらさが出ることがあります。肺に転移することもあるため、細胞診や画像検査だけでなく、胸部レントゲンやCT検査が必要になることもあります。

受診した方がよいサイン

首のしこりが急に大きくなった、硬くて動かない、赤い、出血する、じゅくじゅくする、痛がる、熱を持っている、複数の場所にしこりがある。このような場合は受診を検討してください。食欲がない、元気がない、体重が減る、咳が出る、呼吸が苦しそう、飲み込みにくそう、よだれが増えた場合も注意が必要です。特に首のしこりは、気管や食道に近いため、腫れ方によっては生活の質に直結します。

検査で何を調べるのか

しこりの場所、大きさ、硬さ、動きやすさ、皮膚との関係、痛みの有無を確認します。そのうえで、必要に応じて細い針を刺して細胞を調べる細胞診を行います。細胞診では、炎症なのか、膿なのか、脂肪なのか、リンパ節の腫れなのか、腫瘍が疑わしいのかを調べます。犬への負担が少なく、初期検査として有用です。

ただし、細胞診だけですべてが分かるわけではありません。腫瘍の種類によっては細胞が十分に取れないことがあります。また、悪性度や取り切れたかどうかは、病理組織検査でないと判断できないことがあります。しこり全体を切除して検査に出すこともあれば、一部を採取して診断をつけることもあります。首の深い腫瘤、甲状腺腫瘍、唾液腺嚢胞、周囲に入り込む腫瘍が疑われる場合は、超音波検査、レントゲン検査などを組み合わせて評価します。

治療は原因によって変わります

良性の小さなしこりで、生活に支障がなく、悪性が疑われない場合は経過観察を選ぶこともあります。一方で、大きくなる、こすれる、出血する、感染を繰り返す、悪性腫瘍が疑われる場合は、外科切除を検討します。肥満細胞腫や軟部組織肉腫では、見えているしこりの外側にも腫瘍細胞が広がっていることがあり、十分な範囲を含めて切除する必要があります。首は重要な血管や神経が多いため、手術の難易度が高くなることもあります。

リンパ腫では、手術ではなく抗がん剤治療が中心になります。甲状腺腫瘍や軟部組織肉腫では、手術、放射線治療、内科治療を組み合わせることがあります。唾液腺嚢胞では、たまった唾液を抜くだけでは再発しやすく、原因となる唾液腺の摘出が必要になることがあります。どの治療がよいかは、診断名、進行度、年齢、持病、麻酔リスク、ご家族の希望を合わせて考えます。

家でしてほしいこと

しこりを見つけたら、強く揉まないでください。炎症が悪化したり、感染したり、腫瘍によっては腫れが強くなることがあります。自宅では、見つけた日、場所、左右、大きさ、色、硬さ、増え方を記録しておくと診察に役立ちます。写真を撮る場合は、首全体が分かる写真と、しこりの近くの写真を両方残しておくと変化が分かりやすくなります。

犬の首のしこりは、良性のこともありますが、早めに調べた方がよい病気も含まれます。小さいうちに診断できれば、治療の選択肢が広がります。迷う場合は、まず一度、動物病院で確認することをおすすめします。

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