抗がん剤やパラディアなどの治療を始めたあとに、犬や猫がぐったりする。ごはんを食べない。吐く。下痢をする。その姿を見ると、「治療を始めたのは間違いだったのではないか」と感じることがあるかもしれません。
でも、がんの治療は、薬を予定通り続けることだけが目的ではありません。病気を抑えること、苦しさを減らすこと、家で過ごせる時間を守ること。その全部を見ながら、適した治療を考えていくものです。
副作用が強く出ているときに、ただ我慢して続ければよいわけではありません。薬の量を減らす、いったん休む、次の投与を遅らせる、吐き気止めや食欲を助ける薬を使う。そうした調整で、治療を続けやすくなることがあります。
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
抗がん剤やパラディアの副作用というと、「怖いもの」「耐えるもの」と考えることがあります。もちろん、副作用がまったく出ないとは言えません。ただ、動物のがん治療では、人のがん治療のように限界まで強く治療するのではなく、生活の質を守れる範囲で調整します。
そのため、副作用が出たときには、「続けるか、やめるか」をすぐに決めません。今の症状がどのくらいつらいのか、食べられているか、水分が取れているか、元気が戻ってきているか、薬の調整で楽にできるかを見ながら考えます。
食べないとき
抗がん剤やパラディアのあとに、食欲が落ちることがあります。このとき、無理に食べさせようとすると、かえって食事が嫌になってしまうことがあります。
まずは、食べやすいものに変える、少し温める、においの強いものを少量試すなど、負担の少ない工夫をします。それでも食べない場合には、吐き気、痛み、だるさ、口の違和感などが隠れていないかを見直します。必要に応じて、吐き気止めや食欲を助ける薬を使うこともあります。
「食べない」は、単なるわがままではありません。体の中で何かがつらくなっているサインのことがあります。
吐くとき、下痢をするとき
吐き気は、犬や猫にとってかなりつらい症状です。実際に吐く回数が少なくても、よだれが増える、口をくちゃくちゃする、食べ物を見ても顔を背ける、といった様子があれば、吐き気があるかもしれません。
下痢も、抗がん剤やパラディアで見られることがあります。軽い下痢であれば、食事の調整や整腸剤、下痢止めなどで落ち着くこともあります。ただし、水のような下痢が続く、血が混じる、元気がない、食べない、吐き気もある場合には、脱水や体力低下に注意が必要です。
吐く、下痢をする、食べない、ぐったりしている。このような症状が重なるときは、予定通りに薬を続けるよりも、まず体調を立て直すことを優先した方がよい場合があります。
「続ける」だけが治療ではありません
副作用が出たとき、ご家族の悩みは「このまま続けるべきか」「もうやめるべきか」という二択になりがちです。でも実際には、その間にいくつもの選択肢があります。
薬の量を減らして続ける。数日休んでから再開する。次の投与を遅らせる。飲ませる時間を変える。吐き気止めや食欲を助ける薬を先に使う。別の薬に変える。がんを強く抑える治療から、苦しさを減らす治療へ目標を変える。どれがよいかは、病気の種類、進み方、年齢、体力、ご家族の考え方によって変わります。
食べられるか、眠れるか、家で落ち着いて過ごせるか。そこを見ながら治療を調整します。
早めに相談した方がよいサイン
抗がん剤やパラディアのあとに、半日から1日ほとんど食べない、水も飲めない、何度も吐く、水のような下痢が続く、血便がある、ぐったりしている、ふらつく、呼吸が苦しそう。このようなときは、様子を見すぎずに病院へ相談してください。
副作用は、早めに対応するほど軽く済むことがあります。反対に、「予定された治療だから」と無理に続けると、体力が落ちて、その後の治療が難しくなることもあります。
QOLを守るために治療を調整する
がんの治療では、病気を抑えることと、少しでも楽に過ごせることが大切です。
食べられる。眠れる。家族のそばで落ち着いていられる。散歩に行ける。なでられて気持ちよさそうにしている。そうした時間を守ることも、治療の大事な目的です。
抗がん剤やパラディアの副作用で悩んでいるときは、治療を続けるか、休むか、量を調整するか、治療の目標を変えるかを一緒に考えます。副作用がつらそうに見えるときは、「我慢するしかない」と考えず、ご相談ください。
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