「糖質制限でがんは消える?」兵糧攻めがうまくいかない「意外な落とし穴」

「糖質を抜けば、がんは治る」という言葉は、非常に魅力的です。しかし、動物の体はそんなに単純ではありません。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

1. 糖質制限が「効く」と言われる理屈

なぜ糖質制限が良いと言われるのか。その目的は、腫瘍細胞を「兵糧攻め」にすることにあります。

エネルギー源の遮断: 糖質制限をすると、体は脂肪から「ケトン体」を作ります。正常細胞はケトン体を利用できますが、腫瘍細胞は糖を主なエサにするため、生きづらくなるという理屈です。

インスリンの抑制: 糖が入り血糖値が上がると、炎症や細胞増殖に関わるホルモン「インスリン」が分泌されます。腫瘍増殖のアクセルが踏まれるわけです。糖質制限でインスリンを抑えれば、そのアクセルは緩めることはできても、ブレーキにはならないのが現実です。

理論上は、糖は腫瘍を増やす「エサ」に見えるのです。

2. 「理論」と「現実」の大きな壁

これまで、培養環境(試験管の中)で抗腫瘍効果が確認された物質は数多くあります。しかし、実際に病気の治療として使われているのはごくわずかです。体は試験管よりはるかに複雑なのです。

理論的に有効とされても、糖質制限の有効性を証明するのは大変です。 多くの飼い主さんが実施されていますが、実際に「有効である」とする学術報告は、少数に限られています。

3. 体内で糖が作られます

いくら口から糖を入れなくても、体内では「糖新生(とうしんせい)」という仕組みで糖が作られ続けます。

なぜなら、血糖値が下がりすぎると低血糖発作(震えや痙攣)を起こし、命に関わるからです。体は必死に糖を作り出します。そして、その「作りたての糖」を、腫瘍は容赦なく横取りして摂取してしまいます。

つまり、食事を制限しても、腫瘍を完全に兵糧攻めにすることは不可能なのです。

4. 糖質制限がもたらす「3つの欠点」

良かれと思って始めた糖質制限が、ペットの体に牙をむくことがあります。

1. 膵炎(すいえん)のリスク: 糖質の代わりに脂肪を多く添加するため、膵炎の危険性が増します。
2. 体調の変化: 食事が変わることで食べなくなったり、下痢をしやすくなったりすることがあります。
3. 筋肉の分解: 糖を作る材料として、脂肪とともに「筋肉」も分解されます。特に頭(側頭筋)の筋肉が落ち、骸骨のように顔が痩せこけてきたら、命の貯金が底を突きかけているサインです。

まとめ

腫瘍との闘いには、体力が必要です。糖質を制限して体を衰えさせるより、しっかりと食べて体力を維持することの方が、治療において何倍も大切です。

糖質制限でげっそり筋肉が落ちた犬を見たことがありますが、そんな状態で抗がん治療、体が耐えられるでしょうか。脂肪過多はインスリン抵抗性を招きますから肥満の管理は必要でしょう。糖質制限は魅力的な理論ではありますが、現実には、必ずしも魅力的なオプションではないようです。

FAQ

糖質をゼロにすれば、がんは「兵糧攻め」にできますか?
残念ながら、理論通りにはいきません。
腫瘍細胞が糖をエサにするのは事実ですが、口から糖を入れなくても、体は「糖新生」という仕組みで自ら糖を作り出します。そして、がんはその「作りたての糖」を容赦なく横取りして増殖を続けます。完全に兵糧攻めにするのは、現実的には不可能なのです。

糖質制限にはどんなリスクがありますか?
主に3つの大きなリスクがあります。
1. 膵炎(すいえん): 糖質の代わりに脂肪を増やすため、膵臓に負担がかかります。
2. 体調不良: 急な食事の変化で下痢や食欲不振を起こすことがあります。
3. 筋肉の減少: 糖を作る材料として「筋肉」が分解されます。顔が痩せこけてくるのは、命の貯金が底を突きかけているサインです。

結局、がんと闘うために一番大切なことは何ですか?
何よりも「体力(食べること)」です。
厳しい食事制限でげっそり痩せてしまった体では、抗がん治療の副作用にも耐えられません。制限することに執着して体力を奪うより、「しっかり食べて、しっかり生きるためのエネルギーを蓄えること」の方が、治療において何倍も価値があります。

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