犬の腫瘍は手術しないとどうなる?経過とリスク

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

「高齢だから体にメスを入れたくない」「腫瘍が大きすぎて手術が難しい」など、手術をしない選択をすることもあります。この際、知っておくべきなのは「これから何が起こる可能性があるか」という予測です。腫瘍の種類や場所にもよりますが、手術をせずに経過を見た場合、以下のような経過をたどることがあります。

1. 腫瘍が大きくなることによる「圧迫」

腫瘍が成長し続けると、周りの筋肉、神経、臓器を圧迫し始めます。
足の付け根や脇: 歩きにくくなる(歩様異常)。
首や喉の周り: 呼吸が苦しくなる、ご飯が飲み込みにくくなる。
お腹の中: 他の臓器を押しつぶし、腹痛や嘔吐、食欲不振を引き起こす。

2. 自壊(じかい)と感染

皮膚の腫瘍で特に多いのが、大きくなった腫瘍の表面が弾けてしまう「自壊」です。腫瘍組織はもろいため、少しぶつけたり舐めたりしただけで出血し、そこから細菌感染を起こして強い臭いや膿が出ることがあります。一度自壊すると完治させるのは難しく、毎日の洗浄やガーゼ交換が必要になり、ワンちゃんの生活の質(QOL)が大きく低下する要因になります。そのため、Mohsペーストという選択肢があります。

3. 転移のリスク

悪性腫瘍(がん)の場合、時間の経過とともに細胞が血液やリンパの流れに乗って、他の臓器へ移動します。特に肺や肝臓に転移すると、咳が出たり、急激に体力が落ちたりするなど、全身症状が現れます。転移が進んでからでは、たとえ元の腫瘍を手術で取ったとしても、病気を抑え込むことが難しくなります。

4. 腫瘍の進行による全身状態の悪化(悪液質・DIC)

腫瘍が進行すると、見た目の大きさだけでなく、体全体の状態にも大きな影響を及ぼします。
代表的なのが、悪液質と播種性血管内凝固(DIC)です。
悪液質とは、腫瘍の影響で体の代謝が変化し、十分に食べていても体重や筋肉が落ちていく状態です。

「食べているのに痩せていく」「元気がなくなっていく」といった変化が見られ、体力や免疫力が低下し、治療に耐える力も弱くなっていきます。

一方、DICは血液の凝固異常が全身で起こる状態で、
・出血しやすくなる
・逆に血栓ができて臓器障害を起こす
といった、命に関わる深刻な合併症です。特に進行した悪性腫瘍でみられることがあります。これらは外からは分かりにくく、気づいたときには全身状態がかなり悪化していることも少なくありません。そのため、腫瘍の大きさだけでなく、体重の変化や元気・食欲の低下といった「全身のサイン」にも注意を払うことが重要です。
この段階になると、根本的な治療が難しくなることも多く、治療の選択肢が限られてしまいます。

5. 「手術の難易度」が上がる

「今はまだ小さいから様子を見よう」と先延ばしにしている間に腫瘍が巨大化すると、いざ手術を決心したときにはマージンが確保できず手遅れになっていることがあります。
• 皮膚が足りなくて縫い合わせられない。
• 大きな血管を巻き込んでしまい、切り離せない。
• 手術時間が長くなり、麻酔のリスクが跳ね上がる。
「小さいうちに取っておけばよかった」という後悔を防ぐためにも、手術のタイミングの見極めは非常に重要です。

6. 手術をしない「緩和ケア」という選択

もちろん、リスクを承知の上で「手術をしない」と決めることも一つの立派な選択です。その場合は、ただ放置するのではなく、痛みを和らげるためのケアに切り替えます。
痛み止め: 腫瘍による痛みをコントロールし、普段通り過ごせるようにする。
抗生剤: 自壊や感染による炎症を抑える。
サプリメント食事療法: 免疫力、体力を維持する。

まとめ

手術をしない場合のリスクは、単に「寿命が短くなること」だけではありません。「痛みや不快感が増えること」が最大の懸念点です。「手術をする・しない」の二択で悩むのではなく、「どうすればこの子が最後まで痛がらず、ご機嫌に過ごせるか」という視点で、今の腫瘍の状態を先生と詳しく話し合ってみてください。

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