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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
愛犬・愛猫ががんだと分かったとき、「何かできることはないか」と必死に探してたどり着くのが食事療法です。しかし、ネット上の情報は玉石混交。まずはよくある誤解を解くことから始めましょう。
1. よくある都市伝説:糖質や穀物は「絶対悪」?
もっとも有名なのが「がんは糖分をエサにするから、炭水化物をゼロにすべき」という説です。
確かに、がん細胞が糖分を好むのは事実ですが、極端に糖質をカットしすぎると、今度はペット自身の体力が落ちてしまいます。特に高齢の場合、急な食事制限で痩せてしまい、がんそのものよりも「栄養不足」で体調を崩すケースは少なくありません。
「糖質を控える」という方向性は間違っていませんが、「美味しく食べ、体重を維持できること」が最優先です。極端な制限よりも、良質なタンパク質と脂質をバランスよく摂ることが大切です。
2. 「サプリメントで完治」の真実
「このサプリでがんが消えた」という体験談。これを見て、高いお金を払って何種類ものサプリを飲ませる飼い主さんは多いです。
しかし、残念ながら「サプリメントだけでがんを完治させる」という科学的根拠(エビデンス)は今のところありません。多くの場合、それは個別のエピソードに過ぎません。
ヨーロッパでは、かつて「瀉血(しゃけつ)」が広く行われていました。治った人は「瀉血のおかげ」とされ、その治療が正当化されてきたのです。
この最大の問題は、比較対象となる「コントロール群(対照群)」がなかったことです。もし瀉血をしなければ、生存率はさらに改善していたかもしれません。
現代の「サプリメントで治る」という主張も、これと同じ構造に陥っている可能性があります。
たまたま治った症例だけを見て「効果がある」と信じ込んでしまうのは、科学的な視点を欠いた判断です。動物医療においても、私たちは常に「何もしなかった場合」や「標準治療を行った場合」との比較、つまりエビデンスに基づいた客観的な視点を忘れてはなりません。
サプリメントはあくまで「補助」です。免疫力を維持したり、体調を整えたりする助けにはなりますが、メインの治療(手術や抗がん剤など)に取って代わるものではありません。また、サプリの中には抗がん剤の効き目を弱めてしまうものもあるため、必ず主治医に相談してから取り入れましょう。
3. 食事で一番大切なこと
食事で避けたいのは、「食べること」が苦痛になってしまうことです。
飼い主さんが必死に「これを食べて!」と迫ると、ペットはそれを敏感に察知して、食事の時間が苦痛になってしまいます。喜んで食べてくれ、食べた後に満足そうに寝ていて欲しい。
「病気を治すための食事」である前に、「幸せな毎日を彩るための食事」であって欲しい。
糖質を制限したいがために、好きなアイスクリームを我慢させていた、とうかがったことがあります。口腔メラノーマで残された時間が数ヶ月と予測されました。食事を変えても伸びないでしょう。でしたら、欲しいもの、美味しいものを食べてもらいたい。制限なく暮らして欲しい。そう願いました。
まとめ
ネットで検索を始めると、情報に振り回されて「何が正しいのか」分からなくなります。大きな視点に戻ってください。食事やサプリは、治療としてどの位置にあるのか。一般的な治療効果としては、外科>放射線>化学療法>>>食事やサプリ、といった順になります。ご自身の行動を客観視してください。
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