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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
「体をアルカリ性にするとがんが消える」「酸性食品を避ければがんが治る」「アルカリ性の食品や水ががんに効く」という話を見かけることがあります。しかし、アルカリ化食品やアルカリ水で、犬や猫のがんが治るという科学的な根拠はありません。
がんのまわりが酸性になりやすいことは知られています。これは、がん細胞の代謝の結果として起こる現象です。しかし、アルカリ化食品を食べたからがん細胞の周りが中性になることではありません。ここを取り違えると、「酸性を中和すればがんが治る」「アルカリ性のものをとればがんが消える」という誤解につながります。
体は簡単にアルカリ性にならない
犬や猫の体は、血液のpHを非常に狭い範囲に保っています。少しでも大きくずれると、心臓や脳、酵素の働きに影響し、命に関わります。そのため、体には呼吸、腎臓、血液中の緩衝作用によってpHを一定に保つ仕組みがあります。食べ物や水で、体全体を安全にアルカリ性へ変えることはできません。
アルカリ性の食事や水をとったあとに、尿のpHが変わることはあります。しかし、それは体が余分な成分を尿へ出しているだけです。血液や腫瘍が都合よくアルカリ化されたという意味ではありません。
尿のpHと、がんの治療効果は別の話
尿のpHは、食事や体調、薬、腎臓や膀胱の状態によって変わることがあります。尿石症などでは、尿のpHを見ながら食事を調整することもあります。
ただし、それは泌尿器の病気を管理するための話です。尿がアルカリ性になったからといって、血液や全身、腫瘍のまわりまでアルカリ性になったという意味ではありません。「尿がアルカリ性になったから、がんに効いている」と考えるのは早計です。
アルカリ化食品は、がんの薬ではない
野菜や果物を適切に食べること自体は、健康管理として意味があります。食欲を保つ、体重を落としすぎない、便通を整える、栄養の偏りを減らす。こうした目的で食事を整えることは大切です。しかし、それは「がんを治す食事」という意味ではありません。
がんの治療では、腫瘍の種類、進行度、全身状態、年齢、食欲、痛みの有無などを見ながら、手術、抗がん剤、放射線治療、分子標的薬、緩和治療などを考えます。食事は体を支えるものですが、アルカリ性にすれば腫瘍が消える、という単純な話ではありません。
自己判断で極端な食事にしない
「酸性食品は悪い」「アルカリ性食品だけがよい」と考えすぎると、食事が極端になります。犬や猫では、必要なたんぱく質やエネルギーが不足すると、筋肉が落ちたり、体力が下がったりします。特にがんのある犬や猫では、食べられる量が減っていることも多く、食事制限がかえって負担になることがあります。
また、腎臓病、心臓病、尿石症、膵炎、糖尿病などを併発している場合には、合わない食事が病気を悪化させることもあります。体に良さそうに見えるものでも、その犬や猫に合うとは限りません。
標準治療を遅らせないこと
一番問題なのは、アルカリ化を信じることで、本来受けられる検査や治療が遅れることです。がん治療では、完治を目指せる場合もあれば、進行をゆっくりにする場合、痛みや苦しさを和らげる場合もあります。どの治療が合うかは、腫瘍の種類や進行度によって変わります。
根拠のない方法に時間を使うことで、治療できる時期を逃してしまうことがあります。アルカリ化食品を完全に否定する必要はありません。食事として無理なく取り入れる範囲であれば、問題にならないこともあります。ただし、「がんを治す方法」として期待しすぎないことが大切です。
まとめ
アルカリ化食品やアルカリ水で、犬や猫のがんが治るという科学的な根拠はありません。がんの周囲が酸性になりやすいことは事実ですが、それはがんの代謝の結果であり、アルカリ性の食品をとれば解決するという話ではありません。
食事は、体力や生活の質を支えるために大切です。しかし、がんを治す中心は、診断に基づいた治療と、その犬や猫の状態に合ったケアです。「体に良さそう」という印象だけで判断せず、標準的な治療を考えてはいかがでしょうか。
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