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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
「がんを予防する方法はありますか?」という質問を受けることがあります。もし予防できるならそうしたい。防げる方法があるなら今すぐ始めたい。その気持ちはよく分かります。が、犬や猫のがんを完全に予防する方法はありません。
がんは努力だけでは防げない
がんは細胞の遺伝子に変化が積み重なって起こります。年齢を重ねるだけでも、その変化は少しずつ増えていきます。そのため、「このサプリを飲めば安心」「このフードなら大丈夫」という単純な話ではありません。もちろん、体によい生活はあります。適正体重を維持すること。受動喫煙を避けること。白い猫の耳や鼻、毛の薄い部分では強い紫外線を避けること。こうしたことは無意味ではありません。
特にタバコの煙は、犬や猫の鼻、口、肺などに影響する可能性があります。犬や猫は煙たいとも言えません。同じ部屋で、同じ空気を吸っています。がん予防のためにできる数少ないことの一つが、タバコの煙を吸わせないことです。紫外線についても同じです。すべての犬や猫で大きな問題になるわけではありませんが、白い猫の耳や鼻などでは、扁平上皮癌との関連が知られています。日当たりのよい場所で長時間過ごす子では、皮膚の変化にも注意が必要です。
ただし、それでがんがゼロになるわけではありません。予防とは発生を完全に防ぐことではなく、リスクを少し下げることです。
健康診断は未来を保証しない
健康診断も誤解されやすいものです。検査で異常がなかったからといって、将来も安心という意味ではありません。昨日まで異常がなかった犬や猫に、今日しこりが見つかることもあります。健康診断は「異常がない証明書」ではなく、その時点で分かる範囲を確認する作業です。
がんは突然できるわけではない
飼い主さんから「昨日までなかったのに急にできました」と言われることがあります。実際には、急にできたのではなく、気づける大きさになっただけのことも少なくありません。毎日見ていると、小さな変化は意外と分からないものです。
だからこそ、普段から体を触る習慣が大切です。しこりはないか、口の中は変わっていないか、耳や皮膚に異常はないか。特別な検査よりも、そうした日常の観察が役立つことがあります。
避妊や去勢も万能ではない
避妊や去勢には予防効果があります。特に乳腺腫瘍では、若いうちの避妊によって発生率が下がることが知られています。しかし、すべてのがんを防げるわけではありません。予防できる腫瘍もあれば、ほとんど影響しない腫瘍もあります。
早期発見
臨床の現場で感じるのは、「がんを防げたか」よりも「早く気づけたか」の方が結果に影響することが多いということです。小さなしこりの段階で見つかれば、治療の選択肢は増えます。体調が崩れてから見つかる場合と比べると、その差は小さくありません。
最後に
がんは努力不足でなる病気ではありません。予防を頑張っていても発生することがあります。逆に、何もしていなくても一生がんにならないこともあります。だからこそ、いつもと違う変化を見逃さない。これが最も価値のあるがん対策だと思います。
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