犬と猫の抗がん剤をやめるとき

抗がん剤を中止することは「敗北」ではありません。治療の目的を「腫瘍を小さくすること」から「残された時間を穏やかに過ごすこと」へ切り替えます。
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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

抗がん剤が効かなくなるとき

抗がん剤は、効いている間は生存期間を延ばし、痛みや呼吸苦などを和らげる力があります。しかし、いつかは効きにくくなる時期が来ます。腫瘍が大きくなった、新しい病変が増えた、抗がん剤を変えても改善しない。その背景には、がん細胞が薬剤耐性を獲得したことがあります。投与量を増やしても効果は伸びず、副作用だけが強くなる段階では、治療継続の利益は小さくなります。

副作用とQOL(生活の質)の低下

また、副作用も重要な中止理由です。食欲低下、嘔吐、下痢、骨髄抑制、神経障害、肝障害、腎障害。特に「歩けない」「食べられない」「寝てばかりいる」といった状態は、生活の質(QOL)が大きく低下しているサインです。

抗がん剤によって数週間や数か月延びる可能性があっても、その時間を副作用の不安の中で過ごすのか、それとも穏やかな時間を優先するのか。悩むところです。
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「もう治療をやめたい」という気持ち

抗がん剤をやめたいと思う理由は、医学的なものだけではありません。

「通院がつらい」
「もう家で過ごしたい」
「経済的負担を残したくない」

こうした気持ちは決して間違いではなく、現代医療では尊重されるべき意思決定です。最近では「Financial Toxicity(経済的毒性)」という言葉もあり、高額な医療費や通院負担そのものが患者や家族を苦しめる問題として認識されています。

抗がん剤をやめた後にできること

抗がん剤をやめることは、「もう何もできない」という意味ではありません。その後には緩和ケアが続きます。痛みを減らし、呼吸を楽にし、吐き気を抑え、安心して眠れるようにする。食べたいものを食べ、家族と過ごし、住み慣れた家で穏やかに過ごす。そのための医療です。

いつ終えるかも、腫瘍診療の大切な仕事

抗がん剤をいつ始めるかも大切ですが、いつ終えるかは、それ以上に難しい問題です。しかし最後まで苦痛を減らすことも、腫瘍診療の大切な役割りだと考えています。

手術をするか、抗がん剤を続けるか、どこまで治療するかは、ご家族だけで決めるには難しいことがあります。私たちは、年齢・体力・生活・ご家族の考え方をふまえて、無理なく続けられる選択を一緒に考えます。
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